2022年に自殺した小中学生と高校生は500人を超えたとの報道があった。自殺総合対策大綱は、長期休業明け前後に子どもの自殺が多いとして、自殺予防の取り組みの周知徹底を呼びかけている。しかし、特定の時期に自殺が多いという発信は、つらい気持ちにあるこども・若者の自殺リスクを高めるかもしれない。
もちろん、死にたいほどつらい気持ちを抱えたときに、それを他者に伝えること、相談することは重要である。しかしそれは小中学生と高校生の自殺が増加しているという情報とセットにする必要はない。言いたいことは、ポピュレーションアプローチでは、群発自殺が起こらないような配慮や工夫が難しいということだ。
WHOによる「メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き」の紹介では、「自殺に用いた手段について明確に表現しないこと」「自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと」「センセーショナルな見出しを使わないこと」の3点が強調されるが、自殺予防を建前とした発信も群発自殺のリスクを高める可能性があることに留意したい。
厚生労働省は、自殺の手段や場所の報道は、自殺リスクのある人の模倣を引き寄せるとして、WHOのメディア関係者に向けた手引きを紹介している。文部科学省は児童・生徒の自殺の増加について、全国の教育委員会に対し、悩みや困難を抱える子どもたちにいち早く対応するよう通知しているが、このような通知などから派生した文書や情報発信が、結果として群発自殺を招くことのないようにしたい。各地でこころの健康の専門家を交えた検討と、こども・若者に安全な啓発の推進が望まれる。
自殺をセンセーショナルに取り上げることは、脆弱性の高い人々に、自殺の模倣のリスクを高める。それは特にこども・若者に起こりやすいとされている。こども・若者の自殺予防はとても重要であるが、その取組はよく考えた「安全」なものにしたい。
参考
竹島正:こども・若者に安全な自殺対策を. 日本教育. 527. 10-13. 2023
Samaritans' media guidelines
https://www.samaritans.org/about-samaritans/media-guidelines/
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